「雇用の問題」飲食店経営者が知っておくべき雇用契約書と労働条件通知書について

飲食店経営者が抱える問題・課題のひとつとして雇用に関することが多いとよく耳にします。多くの飲食店が開業した時に、人材を必要とします。正社員や契約社員、アルバイト・パート、そしてお店の繁忙期(状況)によって短期スタッフなど、労働契約を結ぶことになります。雇用に関する在り方を模索している飲食店経営者が多くいらっしゃいます。
スタッフを雇う際は、雇用契約書および労働条件通知書の2つの書類が存在します。
ここで今回は、この雇用に関する契約書、労働条件を明記した通知書などの書き方を中心に解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。

1.雇用契約書は必要あるのか?

雇用契約書は労働者と使用者の間で交わされる労働契約の内容を書面にて明確にするための契約書です。労働者と使用者の両者間で書面に記載されている労働条件を確認し、最終的には双方の合意のもとで雇用が交わされることになります。
しかし、アルバイトの多い飲食店では「雇用契約書は果たして必要なのだろうか?」と疑問をお持ちの経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は店舗側(企業)は雇用契約書を発行しなければならいという義務はありません。
ただし、厚生労働省は労働者が働く上で雇用に対して理解が不十分であってはならないということで以下の条文を謳っています。

使用者は、労働者に提示する労働条件および労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む)について、出来る限り書面により確認するものとする。
(引用:労働契約法第4条)

この条文からも労働者と使用者の合意によって雇用に至るためにも書面として雇用契約書は必要ではないかということが読み取れます。また、使用者と労働者が労働契約を結ぶ時に双方が捺印を取り交わし、それぞれ保管するというのが一般的となっています。

2.労働条件通知書は法的に必要

雇用契約書の交付は必ずしも必要ではないものの、双方が合意した契約のエビデンスになっているということが分かりました。その一方で、労働条件通知書は労働者への交付が法的に義務付けられています。使用者は労働者に対して労働時間や休日などの労働条件を明示しなければなりません。

労働条件の明示 労働基準法第15条(e-GOV法令検索)により、厚生労働省令で定める方法で使用者は労働者に労働条件通知書を明示する必要があるとされています。

3.パートやアルバイトに契約書は必要

パートやアルバイトの多い飲食店では、口頭(口約束)だけで雇用契約を締結していることもあるのではないでしょうか。しかし、労使間で交わす「雇用契約書」と労働条件を通知する「労働通知書」の役割は違うのでどちらかが必要無しということはありません。
同様にパートやアルバイトと正社員の雇用契約の内容の違いはあるものの、使用主と労働者との契約を締結することには変わりありません。


〈雇用契約書の必要性〉
パートやアルバイトは長期で働く人から短期間、スポットで稼働するなどさまざまな雇用形態があります。実はアルバイトやパートで働く人は雇用契約書を交付されていないことが多く口頭で契約を済ませてしまうことが多々あります。
法的には雇用契約書の義務付けはないと前述しましたが、双方の合意のもとで契約を締結していることのエビデンスになります。また、アルバイトやパートのなかで半年や1年毎の期限付き契約という雇用形態もあり、この場合は雇用契約書を明示する必要があります。アルバイトやパートでも正社員と同様、出来る限り雇用契約書の対応をしておいた方が良いでしょう。


〈労働条件通知書の必要性〉
パートやアルバイトでも労働条件通知書は必要です。法的に義務付けられている以上、労働者と使用者の間で結ぶ労働条件(賃金や労働期間など)を記載した通知書を店舗側(企業側)は明示しなければなりません。
労働時間、休日、時給制による賃金など正社員と比べてパートやアルバイトは不安定だからこそ労働条件通知書は事前に通知することが重要だと言えます。
※最近では雇用契約書と労働条件通知書を兼用して作成するケースも増えてきています。

4.雇用契約書・労働条件通知書の必要事項

ここでは雇用契約書と労働条件通知書に明示しなければならない事項を紹介したいと思います。明示事項は「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類あります。


■絶対的明示事項
必ず明示しなければならない事項のことで、以下の内容となっています。

  • 労働期間(契約社員やパートやアルバイトなど契約を結ぶ場合の期間)
  • 雇用期間の定めがある場合、更新の基準に関する事項
  • 就業場所および業務内容
  • 始業、終業、休憩、残業、休日などに関する事項
  • 賃金の決定方法(給料の締め日や支払時期なども含む)
  • 退職に関する事項(解雇に関する理由も含む)
  • 昇給に関する事項(※絶対的明示事項ではないが出来る限り明示しておいた方が良い)

■相対的明示事項
労働規定の定めがある場合、労働者に明示する事項
※この場合、口頭での明示でも問題はないとされています。

  • 退職金やボーナスの有無、支払い方法や時期
  • 退職金を除く一時(臨時等)手当金等
  • 労働者の休職に関する事項
  • 労働者に食事、作業用品などの負担がかかる場合の必要な事項
  • 安全、衛生に関する事項(健康診断や喫煙場所有無など)
  • 表彰や制裁に関する事項
  • 災害補償や業務外の傷病扶助など

以上が書面にて必ず明示すべき事項「絶対的明示事項」と店舗側(企業)が必要に応じて通知するべき事項「相対的明示事項」となります。
正社員、契約社員、アルバイト、パートなどに使用できる労働条件通知書のテンプレートがあるので、こちらを参考にしてみてもよいでしょう。
〈引用:厚生労働省HPより 一般労働者用モデル労働条件通知書(書面)
また、雇用契約を締決する際に、メールやFAX〈「労働基準法施行規則」改正のお知らせ」
などによる電子化による明示も可能です。
但し、以下の3つの要件が必要となります

  • 労働者が電子化を希望した場合
  • 労働者本人だけが閲覧できること
  • 労働者本人が出力をして書面を作成すること(雇用者は添付メールのみ)

5.雇用契約書のメリットで労働トラブルは防げられる

労働基準法は絶対的明示事項について書面での交付を行われない場合は違法とされています。ここで、法的に義務付けられている労働条件通知書だけ労働者に明示すればいいのではないかと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのため雇用契約書は省いてもいいのかと。実は雇用契約書を用意することで労働トラブルを妨げられます。
可能な限り書面で作成しておいた方が、使用者と雇用者による言った、言わないなどのトラブルを妨げられます。
ここで雇用契約書作成によるメリットに少し触れたいと思います。

  • 店舗が定めた雇用(労働)条件を明記した書面に双方が捺印することでエビデンスとして残る
  • 雇用主が明確になるため従業員が安心して働ける
  • 使用者と労働者の信頼関係が結べる
  • 多くの社員には就業規則を渡していますが、内容が細かく記載してあるため全てを読み切ることが難しくもあるが、雇用契約書は全てに目を通す確率が高い

雇用に関するトラブルが生じた場合、上記のメリットからみても適切に対処ができます。法的に義務付けられなくても雇用契約書は用意しておいた方が良いでしょう。

さいごに

いかがでしたか。飲食店の経営者がスタッフを雇った時の契約をどのようにしたいいのかなど分からないという方が多くいらっしゃいます。
労働条件通知書は絶対的ですが、人手不足だと言われている飲食店は雇用契約書を作成することで人材の定着にも繋がります。信頼関係を築くためにも書面として残すシステム(もしくは電子)を導入した方が良いと言えるでしょう。

この記事を書いた人

BrancPort税理士法人