歯科医院で勤務している医師のなかで、いつか独立したいと思われている方が多いのではないでしょうか。しかし、具体的にどのタイミングで開業準備を始めればいいのか分からないという方も少なくありません。開業するタイミングは、人それぞれ違います。一般的には勤務医で数年間の経験によって高度な知識や技術などが豊富になり、ほとんどの人がそれらを確信した上で独立への道に進みます。勤務医からステップアップとして、今度は自分の歯科医院を作りたいと考え始めることが多いです。
今回は、歯科医師が開業するベストタイミング、そしてどのような準備をしていけばいいのかを解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
1.歯科開業医の需要と廃業
近年では、歯のセルフケアの習慣を身につけるため健康状態を考えて積極的に歯科検診を受けている方が増加しています。このような背景からも歯科医院の需要は衰えることなく、今後ますます増えていくだろうと予想されます。実際、歯科医院の数はコンビニより多いと言われています。しかし、その一方で廃業数が増加しているのも下記の数字から読み取れます。
2018年~2019年に開業した歯科診療所は1,451件ですが、廃業した数は1,478件でほぼ横ばいになっています。
廃業の理由は後継者不在や経営不振に追い込まれるなどさまざまですが、医師の高齢化が進んでいることも関係しているとも言えます。
開業医も増加傾向にあるということは需要があるということですが、それだけに競合歯科医院も多く存在しています。また、需要が多い歯科医院の数と比例して廃業数も多いということはこれからも大きな課題のひとつではないでしょうか。
2.歯科医師が独立するタイミング
多くの歯科医師が独立を検討していますが、開業時期の良いタイミングというものがあります。ここでは、失敗しないためにどのタイミングで独立していけばいいのか解説していきます。
2.1 独立まで歯科医院でやるべきこと
歯科医師が独立の意思決定をしたときから開業医としての準備は始まっています。
数年後にどこでどのような歯科医院を作りたいのかなどの理想を思い描く時期です。勤務先で働いているあいだに明確なビジョンを持つことは大切なことです。
では、経営ビジョンを作る前にやるべきこと、つまり独立のタイミングを見極めるために何を行えばいいのか理解することが大切です。
- 開業までの情報収集・・・例えば立地を探すとき、開業したい場所を自らの足でその地域性や競合歯科医院がないかなどの情報収集をします。
- 技術と接客などのスキル形成・・・専門分野(矯正歯科や小児歯科、口腔外科など)を細分化して運営するケースがあります。その際には更なる技術の習得を心がける必要があります。また、患者さんへ治療計画などを説明するためのコミュニケーション力を身に付けることも大切です。
- 開業医への心構え・意識改革・・・歯科医師が開業するには心構えと意識改革は非常に重要です。勤務医の延長から脱出し、自ら診療方針や院内環境を具体化することで意識が変わります。
2.2 経営キャリアプランを立てる
開業した後に「念入りな計画を立てておけばよかった」「あの時こうすればよかった」など後になって後悔しないためにも、勤務医として働いている時に経営キャリアプランを立てることが必要です。
- 院内で発生する数字のシミュレーション
- 自分の専門分野を提供する場合は歯科医院のタイプを考える
- 内容に応じた相談相手を探す
資金面等で想定外のことが発生することも考えて、いろいろなケースを想定することも大切です。また、自身のスキルや資金面での環境が整った上で独立開業に踏み込むことが成功へと導きます。
歯科医院として看板を挙げられるのは通常の一般歯科と専門歯科の小児歯科、口腔外科、矯正歯科の4タイプがあります。一般歯科は専門分野に担当分けをすることがありませんが、矯正やインプラントなどの専門性を追及した歯科医院を開業するケースがあります。どのタイプで開業するのかプランを立てましょう。
最後の相談相手というのは専門家(士業)ですが、開業に必要な手続き等は司法書士、雇用や保険等は社会労務士、節税などお金に関することは税理士などの専門家(士業)です。
信頼のおける人達との交流によって、さまざまなアドバイスをしてくれるので非常に強い存在です。また、歯科用機材を販売する歯科ディーラーからも業界の情報が得られることもあります。
2.3 開業医と勤務医の違いを把握
勤務医は人から雇われる側で開業医は人を雇う側ですが、それぞれメリット・デメリットがあります。これらの違いをいくつか挙げてみました。
- ●年収比較⇒勤務医<開業医(開業医と勤務医は年収という言葉の意味が異なります)
- ●診療方針の決定⇒勤務医の決定権は経営者、開業医は全て自分で意思決定する
- ●集患・増患対策⇒勤務医はPR担当が対策するが、開業医は全て自身が対策をとる
上記はあくまでも一部に過ぎませんが、勤務医と開業医は基本的に技術以外のところで違いが生じています。開業医は院内環境や診療方針など「経営」に関わる運営を全て一人二役以上もこなさす必要性があるということが大きな違いのひとつではないでしょうか。
3.退職を伝えるタイミング
さて、努めていた歯科医院から開業に至るまでの期間はタイミングを計るための計画準備が重要であることを分かっていただけたでしょうか。ここでもうひとつ重要なことがあり、退職の意向を伝えるタイミングです。
歯科医院の就業規則によって異なりますが、以下の期間で伝えるのが一般的です。
- 歯科大学病院・・・6か月~1年前に伝える
- 歯科医院・・・3か月~6か月前に伝える
退職の意向を経営者または院長に伝える時、誰もが円満退社であることを願いますね。しかし、辞める時期や退職理由の伝え方によっては円満退社が難しくなることもあります。
数年もしくは十数年働いていた職場を去る決心をした時には、独立開業を目指していることを正直に伝えると応援してくれる可能性が高いです。
また、退職するまでの期間に余裕をもつことで治療中の患者さんの引継ぎはスムーズに行えます。患者さんの診察内容や注意点をまとめて詳しく文章にして残しながら口頭でも伝えることを心がけましょう。
また、注意点として診察途中の患者さんには後任の歯科医師が診ることを知らせます。いきなり医師が変わってしまうと、患者さんは驚き不安感も抱きかねません。
引継ぎのことを考えると、最低でも希望退職月の3か月前に伝えるのが円満退社になる良いタイミングでもあります。
4.開業準備のために働き方の選択も視野に
在職中から歯科医院の開業準備を進めていくという方もいれば、数か月前から勤務先の仕事をセーブさせて開業準備に専念するという方もいらっしゃいます。
独立に向けて準備に備え開業までの時間を有効的に使うため、働き方を変えたというケースもあります。
- 準備期間を設けるため、開業前の6か月間は常勤から非常勤に変えた
- 開業準備のため土日のみの勤務に変えた
- 資金面を考慮して退職せず開業ギリギリまで働いた
開業するまで準備期間の使い方は、歯科医師の都合や考え方によって異なります。
開業準備に専念するため、数か月間は非常勤あるいは土日のみ働きながら技術や接客スキルの見直し期間に充てたという例もあります。
また、資金面での不安もあり、許せる範囲内で開業するまで常勤先で働きながら準備をこなしたという方もいらっしゃいます。
開業決定後は十分な準備期間が必要です。物件探しから選定まで、そして内装工事・人材確保など順序を追ってやることがたくさんあります。準備期間を設けるためには、今までの働き方を変えることもひとつの選択でもあります。
さいごに
いかがでしたか。勤務医か開業医かと迷われる場合には、自分の人生設計をみなおししてみるのも良いです。将来どの形に転がっても後悔はしたくないですね。開業するという強い意志をお持ちの方は、先ず自分の環境を整えることから始めましょう。そうすることで開業するベストタイミングに気付き準備もスムーズに行えます。成功に近づくために経営者としての準備をしっかりすることが大切です。