近年、訪日外国人が増加傾向にあります。旅行会社や百貨店などあらゆるサービス業で受け入れ態勢が整い、様々なシーンで対応しています。そんな中、外国人が歯科医院に行かなければならない状況になることも見受けられます。このような場合、歯科医院はどのような対応すればいいのでしょうか。また外国人旅行者が来院したとき、どのように準備をしていけばいいのでしょうか。
今回は訪日外国人が歯科医院に来院し、医院側および患者さんの双方が困らないように準備や対応方法などを解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
1.訪日外国人の推移
外国人が日本に訪れたとき体調不良で病院に行くことや、あるいは歯痛や口内トラブルで歯科医院に来院することはあります。現在、訪日外国人は増加傾向にありますが、外国人客数はどれくらいいるのでしょうか。
現在はどれくらいの人数が来日しているのかみてみましょう。また、歯科医院に来院されることを想定してみましょう。
上記は2017年から2024年5月までの月別にみた訪日外客数です。
2024年5月の訪日外国人は3,040,100人となり、前年同月比60.1%増加しています。また新型コロナウィルス発生前の2019年5月より20万人以上も上回っている状況です。
滞在期間はさまざまですが、これだけの人数が日本に滞在期間中にすべての人の健康状態が良好であるとは限りません。歯科医院に来院する可能性も大いにあります。
是非、歯科医院で外国人旅行者の受け入れ準備を検討してみてはいかがでしょうか。
2.外国人(旅行者)患者受け入れの準備
日本に永住している外国人の患者さんを診察した歯科医師は多くいらっしゃいます。
しかし、観光で来日した外国人旅行者を診察した経験のある歯科医師はどうでしょうか。
ここでは、訪日外国人の患者さんを受け入れるためには、どのような準備をしたらいいのか解説していきたいと思います。
2.1 問診票などの英語対応(多言語化)
観光を目的としている外国人は日本語を話さない人がほとんどです。駅構内やホーム、車内などの案内表記が多言語化されていますが、最近では各種サービス業(飲食店など)でも多言語に対応していることが多くなりました。
大学病院や総合病院(歯科含め)に英語は見かけますが、個人経営の歯科医院の表記・問診票はどうでしょうか。特に問診票の取り扱いなどは明確に記入してもらわなければなりません。
先ずは「厚生省 外国人向け多言語説明資料一覧」にある「歯科問診票(dental Questionnaire)」英語版テンプレートがあるので参考にして作成してみましょう。
基本的な問診はまとめてあるので、歯科医院独自の追加項目がある場合は都度記入しておくと良いです。
2.2 コミュニケーションツール
コミュニケーションとは会話だけでなく、患者さん向けの院内表示や案内図なども含まれています。
以下の表示は事前に準備しておきましょう。
- 院内案内図を作成・・・「受付」「診療待合室」「診療室」「トイレ」などは英語も一緒に記入します。
- ピクトグラムの掲示が必要な場所も考慮・・・「立ち入り禁止」「禁煙」「携帯電話禁止」などは待合室側で必要となりますが、「触るな」「メガネケース(入り)」などは診療室での掲示になることが多いです。
コミュニケーションツールとなる言語や表示は外国人患者だけではなく、国内の患者さんにとっても優しい環境と捉えられます。
2.3 診療においてのマニュアル整備
外国人患者を受け入れる場合に言語はもちろんですが、文化や習慣、宗教などのあらゆる違いがあるので把握しておく必要があります。そのためマニュアルを作りスタッフ全員が共有できる資料を作成しておきましょう。
《先ずはマニュアル作成にあたっての目的》
- 外国人患者の診療をスムーズに行うためのマニュアル作成
- 各スタッフの分担作業において対応の効率化
《言語対応についての準備》
- 治療費に関してのトラブルを防ぐ(一般的な治療費を多言語に翻訳)
- 保険制度についての説明文を翻訳化
- 英語ができない場合、タブレットなどに翻訳サービスアプリを導入する
(必要に応じて通訳者を依頼する)
《コミュニケーションなどの対応》
- 受付は診察をするにあたってパスポートの確認をする※観光客の保険証は適用外なので、自由診療となり医院側で費用は自由に決定が可能
- 診療中についての注意点を翻訳しておく
ポイントを押さえた資料を作成し共有しましょう。
※詳細は「 日本政府観光(JNTO)医療関係者様用サポートページ」を参考にしてみてください。
3.訪日外国患者を受け入れるための注意点
外国人旅行者が体調不良あるいは歯痛などによって受診を求められたときに、注意しなければならないことがあります。ここでは、注意点を幾つかあげてみますが、どう対処したらいいのか同時に考えていきたいと思います。
1)言語対応
言語問題は準備段階でも解説しましたが、英語を母国語としている国においても外国人患者さんがもっとも不安だと感じています。実は医療関係者とのコミュニケーション(言語)で7割強の外国人(留学生など含む)が診察時に困ったことがあると言われています。
現在、アジアからの観光客が増加傾向にありますが、英語や日本語も話せない人も少なくはありません。実は、歯科医院は国内の患者さんにとっても苦手意識を持っている人が多くいらっしゃいます。外国人にとって、他国での治療することはもっと不安に感じていることでしょう。コミュニケーションについては、最低限のできる対応を検討してみましょう。
- 多言語による問診票作成
- 医療者の学力向上のため最低限の学習
2)歯科医院側の負担感と診察費用について
歯科医院の負担感と診察費についてのトラブルはデリケートな問題です。下記の事例を見ても特に外国人旅行者の患者さんをめぐっての金銭トラブルは一番多い回答となっています。
上記は医療機関による負担感とトラブル事例です。左グラフの負担感は「言語による意思疎通問題」が1445で全体の85%と圧倒的に多いです。言語による負担感は患者さんと院内側の双方にとっても大きな割合を占めています。スムーズな対応を心がけるため事前に診察・治療を想定した上で言語整備することをお勧めします。
また、右グラフのトラブル事例では「金銭・医療費に関するトラブル」が病院で509ともっとも多く全体の約30%を占めています。このトラブル原因は言語コミュニケーションによる意思疎通がうまくとれていないことが繋がっていると十分考えられます。
たとえば1年以上の長期滞在者は国民健康保険に加入しているので保険内での受診ができますが、旅行者は短期滞在のため全額自費となってしまいます。これらを確認した上で治療の説明をし、了承を得てもらうことが非常に重要です。
治療費のマニュアルを作成し、外国人患者が把握した上で診察することをお勧めします。
さいごに
いかがでしたか。近年、インバウンドが急増しています。訪日外国人のなかにはさまざまな国の旅行者が多くいらっしゃいます。その中には「体調が優れない」「歯痛」「歯の詰め物がとれた」など多くのトラブルが発生する可能性が少なくありません。歯科医院もインバウンドを考慮し、外国旅行者を受け入れる体制準備を整えてみてはいかがでしょうか。