飲食店は、現金商売のため資金繰りが比較的楽な業界でもあり、新規参入がしやすいと言われています。仮にクレジットカード払いによる売掛金が発生しても、クレジット会社を通すので未払いリスクの問題はありません。しかし、この現金商売が「ドンブリ勘定」となって、後の税金上の問題が生じてしまうことがあります。
飲食店の税務調査は、現金売上による帳簿などに漏れがないかなどの調査が軸となります。今回は、飲食店における税務調査でチェックされるポイントや調査対象となりやすい飲食店などを解説します。
もくじ
1.税務調査の目的
税務調査とは、国税庁の管轄下にある税務署などの組織が税金を正しく収めているか帳簿の確認をするための調査のことで、納税者の牽制を目的としています。ほとんどの会社は税務調査が入ると、身構えてしまうことが多いかと思いますが、普段から帳簿を正確につけて税金を納めていれば何も問題はありません。しかし、意図せず複雑な税制のもとでミスによる申告漏れをしてしまったという場合は税務調査によって正さなくてはなりません。事実と異なった申告が確認されれば追徴課税が発生し、金銭の負担が生じてしまいます。普段から顧問の税理士と打ち合わせをしてミスなどがあった場合には、予め訂正しておくことが調査の対策にもなります。
2.税務調査はどのようにやって来る?
税務調査の時期は明確な決まりはありませんが、例えば3月決算の企業には7月頃から書類審査が始まり、訪問での調査は9~11月頃に行われることが多いです。
ただし、飲食店は、事前通知をあえて行わないケースが多いようです。いわゆる抜き打ち調査ですが、その理由として飲食店は現金商売なので取引の実態が掴みづらいことと、事前に調査通知をすればお店側で対策をとられてしまうからです。
抜き打ち調査の他に、税務調査員が客を装ってお店に調査しに来ることもあります。その際、調査員はレジ周辺の席を希望することが多く、お金の管理状況(会計の仕方)をチェックします。また、帰り際に自分の飲食代のレシートもしっかり受け取り、後の調査でジャーナルに入力されているかを確認します。
3.飲食店の調査で見られるポイント
飲食店の税務調査は規模にもよりますが約2日間をかけて行われ、日々の現金の出し入れに最も注目しています。調査員として聞きたい質問が何気ない会話に含まれ、上手に聞き出すことがありますので、対応には注意しましょう。ここでは、税務調査においてのチェックポイントを幾つか解説します。
3.1 売上管理
無通知で税務調査員が来訪したときは、売上の管理状況を調べます。
- レジのロールペーパー(売上記録)と売上金額が合致しているか
- 営業前の釣銭+当日の売上業者などへの支払い金=売上金額になっているか
- 売上日計表とロールペーパーが一致しているか
レジに入っているお金(釣銭以外)と伝票(売上計上額)の合計は通常一致します。クレジットカード払いの分は当然未収入金なので、そういった要因は除いても金額が合わないとなると調査員の目に留まります。また、伝要を誤って捨ててしまったとき、レジを通さなければ大丈夫だと思いがちですが、これは脱税になってしまいます。
3.2 人件費
調査員が人件費について見るポイントがあり、架空人件費の計上をしていないかのチェックをします。架空人件費とは、存在していない従業員に給料を支払ったことにして人件費を計上することで経費を水増しする脱税のことです。人件費をチェックする際の資料として「源泉徴収簿」や「給与台帳」、「タイムカード」などをみます。
その他、給料が現金支給の場合、上記3点の資料の確認に加えて従業員本人にちゃんと支払われているか調べることもあります。現金渡しの場合は、できれば受領簿(従業員の受領印やサインをもらう)で証明できるようなものを作成するとよいでしょう。
3.3 在庫棚卸し
税務調査では棚卸しについても調査します。期末の在庫は利益や税金に影響します。期末月に材料を大量に仕入れているのに期末時点で在庫が少ないと必ず指摘されます。期末月で来期分までの材料を仕入れると経費が増加し利益が抑えられるからです。つまり、利益を圧縮するために来期分までの材料を購入していないかのチェックが入ります。
3.4 外注費
外注費は税務調査に入るポイントとして以下の項目が挙げられます。
- 架空の請求書はないか、外注費の水増しをして税金を軽減させていないか
- 給与(報酬)扱いの支払いが外注費にしていないか
- 外注費のなかで源泉所得税預かりに漏れはないか
以上の項目は必ず調査が入ります。特に外注費の水増しや架空請求書などは、厳しく調査が入るため不正があった場合は見つかる可能性が高いです。報酬として支払う場合は先方からの請求書は必ず保管をしておきましょう。
3.5 その他(まかない)
ほとんどの飲食店は、昼と夜の通し勤務がある場合は従業員に「まかない」を付けていることが多いかと思います。本来「まかない」は無駄になってしまった食材を有効利用できるのでお店側でもメリットがあり、従業員にとってもありがたいのですが、実は税務調査で『現物給与』に該当すると指摘される可能性があります。従業員は無料もしくは著しく低価格で食事の支給を受けたと見なされてしまうことです。これを『給与の現物支給』といいます。この「まかない」の処理が適切になっているか税務調査で指摘されることが多いので、給与として課税されないように注意をすることが必要です。課税されるかの指針は国税庁HP(タックスアンサー No.2594食事を支給したとき)を参考にしてみてください。
4.税務調査の対象となりやすい飲食店
税務調査の対象となりやすい飲食店(企業)がありますが、どのような理由で対象になるのかみていきましょう。
- 売上・仕入れ、外注が急に伸びた或いは減った
- 同業社に比べ多額の経費がある
- 納税額が大幅に増えた(黒字決算)
- 広告宣伝が派手になる
- 売上が急激に上がった
- 原価率の変動が大きい
- 過去の税務調査で不正がみられた
- 不正のあった会社と取引がある
幾つか取り上げた上記のうち、ひとつでも該当するものがあった場合は、早めに改善をしておく必要があります。特に売上などの大きな変動があったときには調査の対象になりやすいので注意しましょう。
さいごに
いかがでしたでしょうか。今回は税務調査で見られるポイントから調査の対象になりやすい飲食店を解説しました。現金商売である飲食店はお金の出し入れを軸に税務調査が入りますが、その他調査員から思いかけもない細かい質問をされます。そのようなときの対応として顧問税理士のサポートは欠かせません。更に普段からミスのないようにさまざまなアドバイスもしてくれます。もちろん顧問税理士がいない場合でも、税務調査のみの対応可能な税理士もいるので、相談してみるのもよいでしょう。いずれにしても健全な経営を心掛け、税務調査がいつ来てもいいようにしっかりと準備をしておくことが大切です。