企業の経営者として、人材不足や離職防止を解決するために、「福利厚生の充実」を検討しなければなりません。大企業のような充実した福利厚生を整備することは、コストや手間の問題で難しいものです。中小企業限定の制度「iDeCo+(イデコプラス)中小事業主掛金納付制度の愛称)」はご存じでしょうか。iDeCo+(イデコプラス)を導入することで、人材不足や離職防止の解決が期待できます。
この記事では、「iDeCo+って何?」「中小企業が導入した場合のメリット・デメリット」「導入までの流れ」をわかりやすく解説します。ご参考にしてみてください。
もくじ
1.iDeCo+(イデコプラス)とは?
「確定拠出年金」とはどういった制度がご存じでしょうか。確定拠出年金には、企業型と個人型(iDeCo)とあります。企業型の場合、各企業が運営管理機関(金融機関)を決めて、制度を導入します。掛金を拠出(積み立て)するのは企業で、運用するのは従業員となります。一方、個人型(DeCo)は、個人が自分でお金を拠出(積み立て)して運用する制度です。あくまで、個人が自身の老後資金を形成する“個人が主役”の制度であるため、ここに企業が直接関わることは今までありませんでした。もし、ここに企業が掛金を上乗せすることができたら、企業は手軽に福利厚生を充実させられますし、従業員も掛金が増えて、より多くの老後資金を準備することができます。
2. 個人型iDeCo+(イデコプラス)を解説
iDeCo+は、2018年5月に始まった制度で、正式名称は「中小事業主掛金納付制度」といいます。中小企業に勤めている従業員が対象となり、従業員の掛金に、企業側が掛金を上乗せできる制度のことです。企業側にとっても、従業員にとってもメリットが多く、今注目されている制度です。
3.中小企業がiDeCo+(イデコプラス)を導入するメリット
企業側のメリットは、掛け金を全額損金に算入※1でき、新たに節税ができることです。給与を増やしても同じく税金は減りますが、単純に給与を増やすのとは異なり、確実に老後資金にすることができます。また、上記で述べたとおり、給与所得は増えませんから源泉徴収額や社会保険料の計算は従来どおりです。従業員の福利厚生を充実させることにより、採用活動のアピールや離職防止になり、会社に対する信頼感を高めることが期待できます。
※1損金算入とは。
法人税額は、会社の利益から、「損金を引く(損金算入)」ことで計算します。
損金として計上できれば、法人税額を抑えることが可能であり、節税になります。
【メリットまとめ】
メリット1:企業型の確定拠出年金などに比べて、比較的手軽に導入できる
メリット2:企業側負担分は、全額を損金算入できる
メリット3:福利厚生の充実になり、人材の採用、定着につながる
メリット4:運営管理手数料などは従業員の負担となる
メリット5:最終的な給付額まで責任を負うことはない
4. 中小企業がiDeCo+(イデコプラス)を導入するデメリット
iDeCo+(イデコプラス)を導入する条件として、「従業員の過半数(労働組合等)に、制度の導入について同意を得ること」とあります。iDeCo+(イデコプラス)は、中小企業対象ですから大人数の同意は必要なく、その分ハードルは低いとは思いますが、労働組合等でしっかりと話をする必要はあるでしょう。また、iDeCo+(イデコプラス)の制度が導入されたら、事務手続きの負担が増えます。
【デメリットまとめ】
デメリット1:労使の合意を得るのに手間と時間がかかる
デメリット2:導入後に掛金は事業主が取りまとめるため、事務負担が増える
5.iDeCo+(イデコプラス)の導入条件とは?
iDeCo+(イデコプラス)の導入できる企業は、以下の条件を満たす企業です。
企業規模が小さく、他の企業年金を実施していないことが要件となっています。
従業員(第一号厚生年金被保険者)が100人以下であること
従業員の過半数(労働組合等)に、制度の導入について同意を得ること
企業型確定拠出年金、厚生年金基金、確定給付金業年金を実施していないこと
掛金は企業側払込(給与天引きに加えて企業側の掛金追加金を納付)であること
企業は拠出対象となる従業員の資格や上乗せする掛金をどうするのか一定のルールを設けることができます。なお、掛金は従業員と企業の合計が毎月5,000円以上2万3,000円以下になるように設定する必要があります。企業は1,000円から2万2,000円の間で企業が定める額を納付します。
6.iDeCo+(イデコプラス)導入までの流れ
【iDeCo+(イデコプラス)実施までの流れ】
1.制度導入の検討
まずは前述のiDeCo+(イデコプラス)導入条件を確認しましょう。そして、開始時期や拠出対象者の資格範囲を検討します。
2.掛金の設定(事業主掛金額の決定)
中小事業主掛金の額は、個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)加入者の掛金と合計して、1か月あたり5,000円以上2万3,000円以下となるように、1,000円単位で決定します。中小事業主掛金の額は、基本的に、拠出対象者全員が同額となるように決定しますが、「一定の職種」、「一定の勤続期間」ごとに掛金の額を決定することができます。ただし、この場合も、同一の職種、同一範囲内の勤続期間では事業主掛金の額を同一としなければなりません。
3.労使同意(実施についての提案・協議)を得る
iDeCo+(イデコプラス)の実施及び実施内容について、労使で協議します。厚生年金保険の被保険者の過半数を代表する者(厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合が ある場合はその労働組合)に対して、「iDeCo+」の実施について提案し協議を行います。協議しなければならないことは以下の点です。
■ iDeCo+(イデコプラス)実施の有無を決定する
■ iDeCo+(イデコプラス)拠出対象者を確認する
■ iDeCo+(イデコプラス)開示時期を決定する
4.届出書類の作成・届出
1~3まで決定したら後は届出書類を作成します。
下記の書類は2部ずつ作成します。(⑨⑩の書類は各1部)
必要書類を作成し、国民年金基金連合会に提出します。
① 中小事業主掛金納付開始・終了届(様式第K-301号)
② 中小事業主掛金対象者登録届(様式第K-303号)
③ 中小事業主の資格に関する現況について(省令様式第10号)
④中小事業主掛金を拠出すること及び中小事業主掛金の額の決定に関する同意書(省令様式第11号)
⑤労働組合の現況について(省令様式第15号)又は過半数を代表する者の証明書(省令様式第16号)
⑥ 中小事業主掛金の拠出の対象となる者に一定の資格を定めることに関する同意書(省令様式第12号)(一定の資格範囲を定める場合)
⑦ 一定の職種及びそれ以外の職種の労働条件が規定されている労働協約又は就業規則などの写し(一定の職種で資格範囲を定める場合)
⑧ 一定の資格別中小事業主掛金届(様式第K-306号)(一定の資格ごとに中小事業主掛金の額を定める場合)
⑨ 中小事業主掛金納付事業所登録申請書(事前登録用)(様式第K-314号)(初めて「事業主払込」の事業所登録をする場合)
⑩ 預金口座振替依頼書兼自動払込利用申込書(様式第K-007B号)(上記⑨に同じ)
上記は制度の開始時期に間に合うように届出書類を提出します。
提出期限は、事業主掛金の初回引落月の前々月20日です。
5.制度開始
初回の事業主掛金の引落前に「中小事業主掛金制度決定通知書兼引落予定のお知らせ」が届き、制度が開始されます。「中小事業主掛金制度決定通知書兼引落予定のお知らせ」に記載された内容に間違いがないか確認しましょう。
■ 拠出対象者の引落予定額
■ 労使合意の際に、拠出対象者に通知した拠出開始年月及び1月から12月に納付する事業主掛金の合計額
さいごに
今回は、個人型確定拠出金「iDeCo+(イデコプラス)」のメリット・デメリット、導入までの流れを解説しました。将来の社会保障制度のことを考えると、確定拠出年金は大きな役目を果たしてくれます。大企業の退職金制度も企業型確定拠出年金に移行が進んでいます。比較的少ない事務負担で「福利厚生」を拡充でき、優れた人材を採用し、長く働いてもらうためにも、iDeCo+(イデコプラス)導入を検討する価値は十分あります。
是非、ご参考にご検討下さい。