飲食店開業時に必要な資金は、大きく分けて開業資金と運転資金があります。開業資金は開業時に必要な資金で、運転資金は開業後にお店を運営していくために必要な資金になります。つまり、お店が軌道に乗るまでの命綱となるのが運転資金です。多めに準備をしすぎても困ることはありません。
以前の記事で「独立して飲食店を開業したい方必見~必要な費用から資金調達まで~」で、飲食店を開業するには1,000万円程の資金が必要になると解説しました。
今回は、お店の営業を継続させるために必要な「運転資金」について解説していきます。
是非ご参考にしてみてください。
1.運転資金の重要性
運転資金とは飲食店(事業)を継続していくために必要な資金のことですが、経営を成功に導くためには運転資金をどれだけ確保しているかで決まるといっても良いでしょう。そのため、お店が軌道に乗るまでの資金は準備しておかなければなりません。
通常、企業では仕入代金の支払いの方が売上代金の回収よりも先行してしまうことが多いため、そこでタイムラグが発生してしまいます。このタイムラグを埋めるために運転資金が必要になってきます。
しかし、飲食店の場合は現金商売のため、手元にお金が直ぐに入るので売上が伸びている間は、手元に入ったお金を運転資金に充当することができます。ただし、オープン直後からお店を軌道に乗せて手元にお金を残すことはとても困難です。ある調査で、約6割の飲食店が開業から軌道に乗せるまで、半年から1年かかったということがわかりました。また、最短の3ヶ月で軌道に乗ったのは、わずか25%程度しかないほど最初は険しい道のりが続きます。開業当時はお店を起動に乗せることに集中するためにも、最低でも3~6ケ月分の支払いができる程度の運転資金を準備しておきましょう。
2.運転資金の種類
運転資金は日々の営業をしていくうえで必要となるお金のことですが、大きく分けて固定費と変動費の2つあります。固定費は売上に関係なく毎月かかる費用のことで、変動費は売上に応じて日々変動する費用のことです。では、固定費と変動費についてどのような違いがあるのか見ていきましょう。
2.1 固定費
固定費は店舗の売上とは連動せず、毎月決まった費用で人件費や家賃などが該当します。その他、お店は営業していなくてもある一定金額の支払いが発生する減価償却費やリース料なども固定費に該当します。また、固定費は売上に連動しない費用とはいえ、区別が難しいものもあります。例えば、人件費は通常であれば固定費になりますが、売上が伸びてきて忙しくなりスタッフの残業代や、繁忙期だけ採用したスタッフなどの人件費は変動費になります。運転資金の持つ特性を把握しておくことも大切なことです。
2.2 変動費
変動費は売上と連動しているので、材料費や販促費、水道光熱費などが該当します。売上が多い月は、当然ながら材料費や水道光熱費も高くなり支払いが多くなります。ここで注意しておきたいのが、売上が伸びている間は来店する見込み客を予想して食材を多めに注文しがちですが、その分仕入れ代金の支払いも多くなります。売上が伸びている時ほど仕入れる材料費も連動して高くなることを把握しておきましょう。
2.3 固定費と変動費の適正比率
固定費と変動費を最小限に抑えることによって、高い利益を生み出すことができます。
(※営業利益を割り出す計算は営業利益=売上―変動費―固定費です。)
通常、飲食店は売上の90%以内に経費を抑えることが望ましいとされています。
では、固定費と変動費はどれくらいに抑えるとよいのか、みていきましょう。
<変動費の割合>
・原価30%:売上高に対する材料費の割合
・人件費25~30%:アルバイト代、交通費、福利厚生費。(繁閑差に応じた人件費は変動費)
・水道光熱費5%前後:電気、ガス、水道代などの水道光熱費。
・広告宣伝費3~5%:ポスターやチラシなどの販促費、(グルメサイトへの掲載料は月々の定額払いのため固定費と考えられる)
・その他 5%以下:通信費、事務用品費、修繕費などの諸経費。
変動費は合計60~70%が適正な比率です。
<固定費の割合>
・家賃10%以下:賃料、共益費。
・その他の諸費用10%以下:原価償却費、リース料、支払い利息など。
固定費は合計15~20%が適正な比率です。
以上の数値は、あくまでも目安で立地条件などによって多少異なります。
経費の大半を占める原価率と人件費の比率を合計60%以内に収めることが理想だと言われています。しかし、どちらも売上によって左右されるため60%を超えてしまう可能性があります。そこで、売上に対して原価率がどれくらい占めているのか把握して仕入れを調整する、またはアルバイトの勤務時間を調整するなどのコストコントロールすることが求められます。コストコントロールすることによって、適正な比率(60%以内)に抑えることができます。
3.短期間で経営不振に陥る失敗事例
飲食店開業時には6ケ月分の運転資金を準備していたものの、早々と底をついてしまったというケースが少なくありません。例えば、お店の明確なコンセプトを決めないまま先に不動産を決めてしまい、開業数カ月後には売上が上がらず、準備していた運転資金から家賃に充当し底をついてしまったというケースです。家賃は一般的に売上の7~10%が相場と言われていますが、家賃がこの数値を上回ってしまい、経費の支払いが困難になってしまったということです。
コンセプトと客層や商品単価がマッチしていないことで運営が厳しくなった例もあります。例えば、スタンディング形式の女性客をターゲットにした飲食店を開業したが、ターゲット層の来店客が少ないというケースです。他店との差別化を図るためスタンディング形式の女性客をターゲットにした計画は良いのですが、女性が好みそうな内装や食器、メニュー(盛り付け)などを考えたお店づくりをしていなかった結果です。コンセプトに合った集客に繋がらなければ、経営の持続は厳しくなってしまいます。
運転資金は、急激な売上の落ち込みや予期せぬ支出が起こってしまった場合のキャッシュでもあるため、多めに用意しておくことも忘れないようにしましょう。
自分が開業したお店がどれくらいの期間で、どれくらいの利益がだせそうなのかの予測は慎重に行うことが大切です。
4.運転資金(資金繰り)に困らないための対策
運転資金の確保は冒頭にも記述しましたが、3~6ヶ月分の用意ができると心強いでしょう。開業当時は来店する見込み客の予想もつかないので、食材のロスを出してしまったり、人件費をかけすぎてしまったりと予想外の出費が重なることが多いです。また、食材が安くなった時にたくさん仕入れてしまうと在庫を抱えてしまう可能性があり、結果として食材ロスがでてしまいます。在庫管理をしっかりと確認することで食材ロスがでにくい状態になります。その他、高い食材を使用している割には価格設定が低い場合もあるので、仕入れ値と価格設定の見直しも必要です。
運転資金が不足してしまったことで、経営悪化にならないように資金繰り表を作成することをお勧めします。資金繰り表とは、ある一定期間の収入と支出、財務収支(借入返済など)に区分けして資金の動きや過不足などの実態を把握できる表です。また、予測と実績を記入することで事前に資金不足による防止策を考えることもでき、「黒字倒産」といった最悪なケースにならないように経営悪化の予防にもなります。飲食店は現金で売上回収することが殆どですが、クレジットカードによる支払いもあります。その場合は入金が半月~1ヵ月先になります。売上が上がった月に利益がでていても入金が半月~1ヵ月先になると、その間の仕入れ代金などは運転資金で支払わなければなりません。資金が不足すると当然支払いも難しくなります。そうならないためにも細かい作業ですが、資金繰り表を作成してお金の流れを分かりやすくしておきましょう。
資金繰り表のテンプレートは無料サイトで提供されているので、自分に合った資金繰り表を選んで作成すると簡単です。是非試してみてください。
さいごに
いかがでしたでしょうか。運転資金は店舗経営を継続させるために、開業から軌道に乗るまでの6ヶ月間ぐらいの確保が必要です。また、軌道に乗った後も営業を継続させるため、営業利益に大きく影響する固定費と変動費を理解し、出来るだけ低く抑えることを意識すると良いかもしれません。飲食店経営は、開業してみないと売上がどう変わっていくかわかりません。リスクは最小限に抑え、運転資金を確保しておくことで余裕のある店舗経営ができるでしょう。