飲食店経営者必見!社会保険と労働保険の加入条件とメリット・デメリット

  • 飲食店を開業したら社会保険の加入が義務付けられている?
  • 個人で飲食店を開業したけど社会保険や労働保険に加入するべき?
  • パート・アルバイトは社会保険・労働保険の加入対象外?

このようなたくさんのお悩みを抱えている飲食店経営者の方が多いのではないでしょうか。通常5人以上の従業員がいる一般企業では、社会保険の加入が義務付けられ、保険料は給料から天引きになります。では、飲食店の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、社会保険・労働保険の仕組みと飲食店の経営者が人を雇ったときの加入条件などを解説していきたいと思います。

1.社会保険のしくみ

社会保険とは、社会保障制度の一つで国民の生活を守るために設けられたものです。公的な費用負担により、被保険者又は被扶養者が病気や怪我・介護や失業・労働時の災害などが生じたときのリスクに備えるための制度です。「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」などは一般的に『社会保険』と呼ばれ、「労災保険」「雇用保険」は『労働保険』と言われています。ここでは、まず社会保険の仕組みについて説明していきます。

■健康保険
健康保険は、被保険者が保険証を使って医療機関で治療を受けたとき、かかった医療費の一部負担(自己負担3割)を支払うだけで健康保険法の定めた医療の利用ができるという仕組みになっています。ただし、勤務中以外での病気や怪我などによるものに限ります。また、一定金額を超えた部分の治療費は高額療養費として払い戻しが受けられる制度もあります。

■厚生年金保険
厚生年金保険は、一般企業(飲食店含)に勤める会社員や公務員などが加入できる公的な年金制度です。20歳から60歳未満すべての人に加入が義務付けられている「国民年金保険」に上乗せした厚生年金保険料が、給料から天引きになります。厚生年金保険料は標準報酬月額に保険料率(18.3%)を掛けた金額となり、その半分が自己負担の金額で毎月の給料から天引きされています。例えば月額報酬が30万円の場合、そこに18.3%かけると54,900円となり、そのうち自己負担が半分なので27,450円となる仕組みです。残りの半分は会社負担になります。

■介護保険
40歳になると介護保険の加入が義務付けられ、64歳まで健康保険料と一緒に徴収されます。介護被保険者証は65歳の誕生月に市区町村から郵送で交付されます。

2.労働保険のしくみ

労働保険は前述したように「労災保険」と「雇用保険」があります。労働者を雇用している事業主は労災の加入は必須で、雇用保険は一定条件に満たすことで加入対象となります。
では、労働保険のしくみを説明していきます。

■労災保険
労災保険は働いている従業員全ての労働者が加入対象となります。労働者は通勤中や勤務中に病気やけがなどの災害などにあったときに、それが労災と認定されると国から給付金を支給されることになります。なお、全額会社負担のため個人負担はありません。

■雇用保険
労働者が失業や育児休業をしたとき、生活の安定や再就職促進を図るための給付を支給する保険制度です。しかし、ある一定の条件を満たさないと短時間での労働の場合は、雇用保険の対象とならないことがあります。(※雇用保険の加入対象者の条件は次に解説します。)

3.社会保険の加入条件と加入手続き

経営者は社会保険の加入手続きをすれば、原則として従業員の保険料は事業者側で半額負担することになります。一方で加入手続きをしなければ負担することはなく、従業員は国民健康保険と国民年金に加入します。経営者としては社会保険を加入するべきか考えてしまうところですが、個人経営か法人経営かで社会保険の加入条件が異なります。

<社会保険の加入条件>
法人の場合は業種・従業員の人数問わず、社会保険に加入しなければなりません。
たとえ経営者1人だけの飲食店でも、法人として登記していれば経営者は社会保険に加入しなければなりません。パートやアルバイトも以下の条件に満たしていれば社会保険加入の対象となります。

  1. 1週間の労働時間が20時間以上
  2. 雇用期間が1年以上見込まれる
  3. 月額の賃金が88,000円以上
  4. 学生でないこと

一方、個人で飲食店を経営する場合は、従業員が何人いても社会保険の加入義務はありません。もちろん加入することもできます。保険の加入を希望する場合は、被保険者となる従業員に半数以上の加入同意を得ることが必要です。その後、事業主が任意適用申請書を日本年金機構へ提出し、厚生労働大臣の認可を受けることができたら従業員全員は社会保険に加入できます。

次に社会保険の加入手続きを説明します。

<社会保険の加入手続き>
社会保険の手続きは、従業員が入社して5日以内に「被保険者資格取得届」を作成し、事業所を管轄する年金事務所に提出します。扶養者を加えるときは「健康保険扶養者(異動)届」を提出します。電子申請、郵送もしくは窓口持参のいずれかの方法で申請は可能です。

4.労働保険の加入条件と加入手続き

労働保険は労災保険と雇用保険の2つありますが、それぞれの加入条件が異なります。

<労働保険の加入条件>

  • 災保険⇒従業員がたとえ一人でも加入しなければなりません。
  • 雇用保険⇒下記の2項目に達していれば従業員と同じくパートやアルバイトでも加入する義務があります。
  • 1週間の労働時間20時間以上
  • 31日以上継続の働く見込みがある

<労働保険の加入手続き>

  • 労災保険⇒加入手続きは「労働保険関係成立届」を労働基準監督署に提出します申請期間は従業員を初めて雇用した日(加入日)から20日以内に手続きをする必要があります。
  • 雇用保険⇒管轄するハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。転職先では以前働いていたときに渡された「雇用保険被保険者証」の被保険者番号が必要になります。申請期間は従業員が入社した日の翌月10日までに行わなければなりません。

5.社会保険・労働保険加入のメリット・デメリット

事業主と従業員の保険加入に対する意識の相違が若干あるようにみえます。では飲食店側からみて社会保険・労働保険の加入はどうでしょうか。ここでは社会保険と労働保険の加入適用となった場合のメリット・デメリットを飲食店側の視点で解説してみたいと思います。

〈労働保険・社会保険加入のメリット〉

●社会的信用が得られる
従業員がきちんと社会保障を受けていることで、対外的にも社会的信用が得られます。また、コンプライアンスを徹底していることへのアピールにも繋がります。

●人材の確保
求職者は就職を考えた時、社会保険完備の職場を希望としていることが多いです。そのため、人手不足と言われている飲食店でも求人広告を出したとき、社会保険完備と記入すれば応募者が増えて優秀な人材の確保に期待が持てます。そして福利厚生が充実すれば従業員の定着率もよく、社員のモチベーション向上にも繋がります。

●労災保険加入のメリット
勤務中に火傷や病気を負った場合、健康保険は適用されません。治療費は実費となり多額になると労災保険に加入していない場合、従業員からの損害賠償を請求される可能性があります。よって労災保険加入は大きなメリットになります。

●健康保険・介護保険加入のメリット
法人の場合は雇用主も加入適用になり、様々な給付が受けられます。また、従業員の医療面や精神面の負担を軽減できるので雇用主としても大きなメリットになります。

●厚生年金保険の加入メリット
厚生年金保険も健康保険・介護保険と同様雇用主は加入できるので引退後には安定な収入が期待できます。前述した人材の確保のように社会保険完備は大きく影響します。

〈労働保険・社会保険加入のデメリット〉

●保険料の負担
冒頭にも述べましたが、労働保険と社会保険を加入すると以下にように事業主側は保険料負担しなければなりません。

  • 健康保険と厚生年金保険・・・労使折半
  • 介護保険・・・40歳以上~65歳未満の従業員に対して、健康保険料と同じ負担割合です。
  • 雇用保険・・・事業主は労働者より多く負担します。
  • 労災保険・・・全額負担(労災保険料率は3/1000)

●事務手続きが増大
社労士などに委託をしている場合は手続きを任せられるのですが、依頼をしていない場合は全ての従業員の入退社時の加入脱退手続きという事務作業が増大します。特に飲食店の場合は長時間営業が多いので事務作業の負担が大掛かりとなってしまいます。

さいごに

今回は社会保険・労働保険のしくみや加入条件を解説しました。飲食店は個人経営であれば従業員の人数関係なく社会保険の加入が義務付けられていませんが、従業員の健康と生活を守る保険はとても重要です。最近の傾向として、パートやアルバイトで仕事を探す人も社会保険完備を望んでいる人が多くなりました。パートやアルバイトを雇う機会が多い飲食店は、どのような場合に加入義務が発生するのか理解しておくといいかもしれません。

この記事を書いた人

BrancPort税理士法人